ちょうど、まったくの一年ぶりにJと会う。
あの頃のように、新宿西口で待ち合わせをして肉を食べる。
出会ったころのように、痩せて黒く焼けた肌のJがあいかわらずの眩しそうなしかめっ面
で立っている。なんだかすごい髪型になっていたが、
「おう、生きてたか?」
「なんとかね、生きてるよー」と、少し照れくさい。
家族や仕事の話など、お互いを取り巻く環境の話などする。
「おまえに会う前は、あれも聞こうこれも話そうと思ったのに、不思議と全部忘れたな。
おまえが出ていって、すぐ引っ越そうと思いながら、新しい植木とグラスを買ってしまって、まだあそこに一人で住んでるよ。
ヒトカドの幸せからはますます縁遠い毎日だよ。
でもおまえが出ていった時の悪い思い出も、全部忘れたよ。
楽しいことばっか覚えてるよ。」
返す言葉が見つからず、黙って牛肉を食べる。
「おまえの新作を聞いて、おーきちんと自分の生きる道見つけたんだ、と思ったよ。
すごくいいよ。びびったよ。
あれがひねり出せたんなら、なんとかなる。気をぬくなよ。」
Jに誉められるのは、初めてのこと。
いつも何をやっても駄目出しばかりされていた。
そうだ、私この人にずっと誉められたかったんだ。私のことを、女としてだけではなく、
人間として、モノを作る人として、ちゃんと認めて欲しかった。
そうだ、認めてほしかったのではなく、
認めてもらっていない気になっていたんだ。
嫉妬していたんだ。
自分の進む道へ、足元の花など蹴散らかしても気にも留めず、突進する彼の姿に、
自分を重ね合わせては、何か見つけられない自分に焦ってばかりいた。
店を変えても、車だからとウーロン茶を飲みながら、
自分の作品のことばかり話す彼を見て思う。
一見変わったのは、二人とも、ヘアースタイルだけのようだけど、
二人出会って別れなければ、髪型だって変わっていなかったかもしれないのね。
当たり前だけれど、我々はいまを生きていくしかないわけで、
私はまた、新しいうたを歌いたい。
Jよ、君のそのスタイルには、脱帽です。と思う。
Jの優しさは、海のように広くて、強暴である。
口には出さないけど、ほんとうにありがとうと、思う。
送ってやるというのを、なぜか無理に断って、ひとり新宿駅へ向う。
ホームであまりの混雑に一本乗り過ごしながら、いい男だなーと思う。
そして、今でもファンだよ。
誰より君の新作を、いつも楽しみにしているの。
新曲レコーディングをしていて、思う。妙に濃慣れてはいないか私?小手先で片付けてはいないか私?
一瞬でも気を抜いたら終わりだぞ私。あれを超えなければ。これからなんだ!と思う。