ひどい夢をみた。
よかった。
夢で良かった。
いくら呼んでも振り向かない天太に、
「呼ばれたら返事してよねー。」と肩を揺すってみると、
振り向いた天太の顔が、数年前バイク事故で死んだ友達だった。
彼のお葬式で会った、彼の当時の新しい友達(わたしは知らない人達)に言われる。
「今回は、こうゆうことでいいですか?」と。
成仏出来ない彼を、天太とすり替えようと言うのだ。
気がついたら布団の中で、
「良くないわよ!天太、返してよー」と大泣きしていた。

あまりに恐ろしくて、彼の親友であったKちんに、電話までしてしまった。
「今度Dのお墓参りに、連れて行ってほしい。」
「まー気にしないことだな。俺も悪い夢みて、彼の両親に電話しちゃったことあるよ。」
Kちんは当時、突然に事故死してしまった親友の遺品と、彼のバイクの後ろに乗っていて同じように即死だった見ず知らずの彼女の遺品。
ふたりの位牌まで自分の手で掘ってあげたらしいのだ。

その時わたしは、世田谷でつきあっていた人と同棲していた大きな家を飛び出して、借金しまくって借りた高円寺のワンルームに住んでいた。
まともな仕事も見つからず、財布の中の小銭を数えては、高架下で一杯おごってくれる人をはしごしていたのだ。
あまりの突然の知らせに驚いて、大阪までの交通費さえない自分に、途方に暮れていた。
「後悔しないように」
そういって、Pちゃんが金を貸してくれ、Y氏が車を出してくれ、大阪で行われた彼の葬式にわたしは駆けつけたのだ。
涙が一滴も出なかった。
ぽかーんとしてリアリティーもないままに式は終わってしまい、黒い服を着た久しぶりの友達にたくさん会って、東京へ帰ってきた。

学生時代、Dと私は付き合っていた。
わたしが明るく行動力やリーダーシップ性があるようなタイプの男と付き合ったのは、あの時一度だけだ。
最初はもの珍しかった彼の前向きな言動も、口八丁に思えて、わたしはすぐに飽きてしまった。
影のある男が好きなのだ。
恋愛って、逃げられるとほんとうに追いかけたくなるものらしい。
Dははじめのころ、わたしを諦められず、友達ぐるみでよりを戻そうと必死だった。
それがますますうっとおしくて、あまりにひどい態度でそれを拒むわたしは、気がつけば相当にひどい人だった。
あまりにひどいということで、気がつけばわたしは、学校の中で、四面楚歌であった。
それでも私は「色恋には、約束もひどいもずるいも悪いもないのよ!」と強気だった。

割と短い時間が経って、彼にかわいい彼女が出来たことも聞いていたし、すぐに新しい彼女でも出来るタイプだろうと思っていたので、
気にも止めないまま月日は流れていった。
流れていったのであるが、当時の学生生活におけるもつれてしまった人間関係が、わたしにいろんなことを教えてくれた。
彼の後輩などは、「おまえの顔を見ると吐き気がするから、この道さえ歩くな!」と言う奴もいた。
後ろから「裏切り者ー!」と跳び蹴り喰わされたこともあった。
「ふふふ、言ってればいいわ。わたしには歌がある、音楽があるし今があるのだ!気にしないもんねー。」と言いながら、
結構気にしたりしていたように思う。

そんなことや、大好きな友達のKちんとの出会いも含め、彼からはいろんなことを教わったように思う。
だけど、死んでしまったんだなー。と思う。
「やっぱりおまえはウザいんだよっ。」とも、もう言えないのである。

はー今日は朝から曇りで、 腰もイタいし、眠いし怠いし、
散らかった部屋の中で、動く気がしない。
けれどいまそんな全ては現実で、何よりもいま、わたしは生きているのだなー。
ほんとうに出来ることをいまやらないと、残酷にも月日は過ぎていきます。

そうして母の入院が決まった。
そうして天太2歳まであと一ヶ月か。